09・7・5グッバイマイラブ

 アルバム全編に響き渡るラウドなロックギター。ずっしりとした音とテンポで叩かれるドラムス。ハンバートハンバートの佐藤良成が結成した2人組ロックバンド、グッバイマイラブのファースト・アルバムが完成した。
 メンバーは佐藤(ボーカル・ギター)と村井健也(ボーカル・ドラム)。元々高校時代に一緒にロックバンドを組んでいた2人が再会して、最少人数の新バンドが誕生したのだ。
「高校時代は文化祭とかに一緒に出てましたね。ツェッペリンとかキング・クリムゾンとかクイーンとか確かコピーしてたんだよね。選曲はぼくらの趣味とはちょっと違ったけど(笑)」(村井)
「うん、そのほかにぼくは自分でフォークのバンドを作って、健也も別のメンバーとバンドをやってた。そのフォークのバンドではニール・ヤングとかザ・バンドのカバーをやってました」(佐藤)
 そういえばハンバートハンバート2008年のアルバム『まっくらやみのにらめっこ』にはベース、キーボード、ドラムスが参加してバンド編成で演奏される「バビロン」という曲があったし、その出来の良さはアルバムの顔にもなっていた。元々ロックから音楽に深入りしたと聞く佐藤、音楽的な好みがさらに加速してこのたびの“ガレージ・ライク”なバンド結成に至ったのだろうか。
「う〜ん、その後も曲が一杯出来ていったんですよ。どうもこれはハンバートでやるような感じじゃないし思い切ってロックバンドでやろう、という気持ちになっていったんですね。ハンバートに物足りなさを感じたなんていうのは全然ないんです。あくまで最初に楽曲ありきで始まって、アレンジが落ち着くところに落ち着いたという感じですよね」(佐藤)
 ギターとドラムスという編成と聞くとついホワイト・ストライプスや、佐藤が今愛聴しているというザ・ブラック・キーズなどの2人組ロックバンドを思い出してしまう。実は最も刺激的なサウンドが生まれる旬な形という気もするのだが、2人だけで演奏するという方法もセッションを続けるうちに自然と決まったいったのだそう。
「健也は高校時代はドラムだったけど、その後はギター&ボーカル担当で音楽活動をやってたし、じゃあぼくが何ならベースでも弾いてみようかと思ったんだけど、やってみたらベースは難しい(笑)。それでぼくもギターを弾くことにして2人プラスドラムで最初は3人編成で始めました。でも半年くらいやってたら、ドラムが抜けちゃった。新しい人に任すのは難しいし、もうリズムの具体的なイメージは健也の中にあるわけだから、だったら自分で叩くべきだよ、とぼくが説得したんです」(佐藤)
「それもよりによってライブの前の日にドラムが来られなくなるという事態が起きたんだよね(笑)。どうしよう?と焦って結局、ぼくがその場でドラムを叩いて、その日以来担当がドラムに変わっちゃったんですよ(笑)」(村井)
「ホワイト・ストライプスとかは好きだけど、だからそういうのがいいいと思って始めたわけじゃなくて、2人でやろうと思ったときにほかの人が思いつかなかったんです。バンドって大事なのは人であって楽器じゃないと思うんですよね」(佐藤)
 というわけでハナから2人組ではなくて、結果的に2人組となったグッバイマイラブ。アルバムの収録曲は佐藤のオリジナル、村井のオリジナルがほぼ半分ずつの割合で演奏され、トム・ウェイツの初期代表曲「Martha」のカバーが1曲登場(村井健也の特に好きなアーティストはトム・ウェイツやボブ・マーレイなのだそう)。ハンバートの楽曲でも特徴的な日本語がゆっくり聞こえる歌というのが、こちらの新バンドでも変わらぬ個性となっている。そして意外と全体的にドロっとしたゆっくりめのリズムで展開されるのがバンドのカラーともいえるのだろう。カバー曲「Martha」が転じてパンキッシュなビートで演奏され、アルバムの中でいいアクセントになっている。
「さっきも言ったようにドラムのビートについては明らかに彼の中にあるわけで、このテンポでこのビートこそが正しいという認識があるはず。もっと言うとロックっていうのはこういうものだと思うんですよ。元々ぼくはテンポの速さには惹かれないし、ノリを小刻みにするよりもむしろ大きく取った方がより踊れるんじゃないかと思うけどな。これ以上速くするとメロディの味わいがなくなる気もします。巷に流れる性急なロックビートというのは間違っていて、むしろこちらが正しいとぼくには思われますね」(佐藤)
「やっぱりゆっくりめの方が叩きやすいしね。その方が気持ちいいし。『Martha』はテンポを速くしてみたら上手くいったので、そうなりましたけど、意外と疲れます(笑)。何しろ速いと歌もギターもドラムも大変ですから」
(村井)
 「くたばれ、人生の先輩たち!」「ノアの方舟」なんていう思わせぶりなタイトルが、音楽ファンの耳目をぐいと引きつける。音楽が一番訴えたい部分、語りたい部分をハンディに掴まえることができるから、アルバム『グッバイマイラブ』は何ともキュートで憎めない1枚である。佐藤良成の心の中では曲が生まれたら一番いい形にして、できるだけたくさんの人に伝えたい。そうした思いはいつも変わらない。着実に活動のスケールを拡げているハンバートハンバートと並行して、こちらのグッバイマイラブの方も軌道に乗せていきたい、と抱負を語るのだった。

(取材&文 長谷川博一)

写真:船橋岳大
(2009.6.29 渋谷クラブクアトロ)


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1stアルバム
『グッバイマイラブ』