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「Fate シリース?」 キャラクターゆかりの地を巡る旅

「Fateシリーズ」キャラクターゆかりの地を巡る旅


近年、ケルト神話に熱い注目が集まっています。これまでも、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」などのファンタジー作品を通してその世界観に魅了され、源流であるケルト神話に辿り着く人たちも少なからずいましたが、ここ数年のケルト神話ブームにもっとも火をつけたのは、ゲーム作品「Fateシリーズ」です。

「Fateシリーズ」は、ゲームブランドTYPE-MOONによるRPG作品シリーズで、2004年に発売された「Fate/stay night」から様々な続編や派生作品が作られています。特に、2015年に初のスマートフォン向け作品「Fate/Grand Order」(FGO)がリリースされると広く一般にも普及し、アニメや映画などのメディアミックス企画も多数生まれています。
このシリーズでは、「マスター」と呼ばれる魔術師が、「サーヴァント」と呼ばれる使い魔を使役して戦いを繰り広げるのですが、そのサーヴァントや物語に関わるキャラクターとして、ケルト神話やそこからの影響を強く受けた「アーサー王伝説」の英雄達が多数登場します。そこからオリジナルのケルト神話について深く興味を持つ人たちが生まれています。

今回は、その登場人物の中から「クー・フリン」、「フィン・マックール」、「メイヴ」、「ディルムッド」、「トリスタン」にまつわるゆかりの地を、アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドである山下直子さんにご案内していただきました。





2021.02.24掲載

「Fateシリーズ」 キャラクターゆかりの地を巡る旅


現地紹介文・写真●山下直子


【クー・フリン】

クー・フリン(クー・フーリン、ク・ホリンとも)は、アイルランド神話で屈指の人気を誇る英雄。アイルランド神話の2つめの物語群である「アルスター物語群」の主人公とも言える存在で、太陽神ルーを父に、人間の女性を母に持つ半神半人の設定。その名前は、「クランの猛犬」の意で、クラン王の庭の獰猛な番犬をひとりで倒してしまったことに由来しています。彼の師である影の国の女王・スカサハや、彼女から授かった槍ゲイ・ボルグなども有名です。アイルランドでは国民的な人気を誇る英雄で、いろいろな創作物のモチーフとなっており、たくさんのゆかりの地があります。
Fateシリーズでは、1作目の「Fate/stay night」から登場し、神話のとおりゲイ・ボルグを操る「ランサー」のサーヴァントとして召喚されます。
「Fateシリーズ」に登場するクー・フーリン

画像:J. C. Leyendecker "チャリオットに乗り戦いに挑むクー・フーリン”(1911)


ナーヴァン・センター&フォート(Navan Centre & Fort, Armagh, Co. Armagh)


https://www.heritageisland.com/attractions/navan-centre-fort/
クーフリンが赤枝騎士団の団長として活躍したアルスター王国の首都エウァン・マハ(Emain Macha)とされる地。ケルト人の祭事の場として紀元前95年に建造された巨大な塚には、神の捧げものとしてアルスター国民が総出で建造したという木造神殿が埋められているという。
センターでガイド付きツアーに参加すると、ケルト人の暮らしの様子を再現した村を見学することが出来る。夏季はケルト人に扮した人たちによる、暮らしの様子の実演あり。

☆Google Earthで見てみよう!
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クロカファーモア立石(Clochafarmore Standing Stone, Co. Louth)


別名クーフリンの石(Chuchalainn's Stone)。「クーリーの牛争い」で敵の一撃をくらい致命傷を負ったクーフリンが、敵陣に最期を見せまいと自分の体をくくり付けて戦い続けたと言われる立石。クーフリンの肩にワタリガラスに姿を変えた死の女神モリガンがとまったのを見て敵はその死を知り、近づいて首を切り落とそうとしたところ、亡骸が放つ「英雄の光線」が手に握られた剣を動かし、敵の右手に刃を向け切り落としたという。
立石は高さ3メートル、青銅器時代(BC2500~800)のもの。1920年代に付近で青銅の矢じりが発見されたことから、この地は実際の戦場であったと考えられる。
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画像:Stephen Reid "クーフリンの死" (1904)




クーリー半島(Cooley Peninsula, Co. Louth)


褐色の雄牛ドン・クアリンゲを奪わんと攻めてきたメイヴ女王率いるコノート軍と、迎え撃つクーフリンとの戦い「クーリーの牛争い」の主な舞台とされる地。クーリー山脈とカーリングフォード湾が織りなす風光明媚な地として知られ、メイヴ女王の軍隊が通ったとされるバーナヴァヴァ山(アイルランド語で「メイヴの谷」の意)など物語を思わせる地名も残る。
神話にちなむ「牛争いの道(Tain Way)」と呼ばれる全長40キロのハイキング・ルートや、半島を一周する173号線像沿い(Bush小学校近く)にはドン・クアリンゲの銅像もある。
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ギャップ・オヴ・ザ・ノース(Gap of the North, Jonesborough, Co. Lough)


かつてのアルスター王国へ至る峠の道。「クーリーの牛争い」で、クーフリンが、侵攻してくるメイヴ女王のコノート軍を食い止めるべく苦戦した難所とされる。1601年に英軍が建てたモイリー・キャッスル(Moyry Castle)の廃墟が残ることから、歴史的にもアルスター進攻を防ぐ防衛上の拠点であったことがうかがい知れる。
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GPOの「クーフリンの最期」像(The Death of Cuchalainn, General Post Office,O’Connell Street, Dublin 1)


ダブリン市内の中央郵便局(GPO)内にあるオリバー・シェパード作のブロンズ像。1916年のイースター蜂起の慰霊を込めて、蜂起勃発の地であるGPO内に1935年に設置された。敵に死に様を見せなかった勇敢なクーフリン神話は、英国の支配に屈することなく独立を勝ち取ったアイルランド人の姿に重ねられ、愛国心の象徴として好まれた。ベストセラーとなったフランク・マコートの自伝的小説『アンジェラの灰』にも、移民先ニューヨークからの引き揚げ家族がこの像を見に行くシーンが書かれている。
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セタンタ・ウォール/トゥイン・ウォール(Setanta Wall / Tain Wall, off Nassau Street, Dublin 2)


クーフリンの生涯を描いた大モザイク画。7歳のセタンタ少年がクラン王の番犬を倒す場面(この出来事により「王の犬」を意味する「クーホラン(当地ではこう発音される)」の名を与えられる)、マハの呪いにより病に倒れるアルスターの男たち、クークリンの父・光の神ルフを象徴する太陽、朋友ファーディアとの一騎打ち、コノートの白角の牛フィンヴェナハとアルスターの褐色の牛ドン・クアリンゲの殺し合い、クーフリンの最期(上述)など、物語の主だったシーンが描かれている。1974年、デスモンド・ケリー作。
(※2021年2月現在、工事により取り払われ、見ることが出来ません。)
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クーフリンとファーディアの銅像(Statue of Cuchulainn and Ferdia, Bridge Street, Ardee, Co.Lough)


「クーリーの牛争い」でクーフリンは少年時代にともに修行をした朋友ファーディアと一騎打ちをする羽目になり、激戦の末、魔の槍ゲイボルグで友を殺してしまう。物語中盤の山場であり、もっとも涙さそうエピソード。2人の激戦はアーディーの町を流れるディー川(River Dee)の浅瀬で行われたとされ、ファーディアの亡骸を抱きかかえるクーフリンの像が建てられている。アーディーという地名は「ファーディアの浅瀬」を意味するアイルランド語(Ath Fhir Diad)に由来する。
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画像:Adrian Crawley "クーフリンとファーディアの銅像”





【メイヴ】

クー・フリンと同じくアイルランド神話の「アルスター物語群」に登場するコナハト王国の女王で、クー・フリンの宿敵と言える存在。アルスター伝説における最大の戦争である「クーリーの牛争い」を引き起こした張本人で、クー・フリンの死のきっかけを作った人物でもあります。財産や色恋に貪欲で、「クーリーの牛争い」でアルスターに攻め込んだきっかけは「自分の夫の牛よりいい牛が欲しい」であったり、フェルグスをはじめ愛人を多数抱えるなど、なかなかにお騒がせなキャラクター。 FGOでは「ライダー」のサーヴァントとして登場し、「女王の躾」というスキルで男性キャラクターの攻撃力をUPしたり、対男性の敵に大ダメージを与えたりと、女王様っぷりがより強調されている。

画像:J. C. Leyendecker "メイヴ” (1911)


ノックナリー(Knocknarea, So. Sligo)


高さ327メートルの石灰岩の丘。山頂にある未発掘の巨大なケーン(石塚)は新石器時代(BC6000~2500)の古墳とされるが、ノックナリーとはアイルランド語で「王/女王の丘」を意味すること、お椀型の丘が女性の乳房に見えることなどから、コノート王国のメイヴ女王が眠るとの言い伝えがある。伝説によると、女王は直立で武装したまま、今も敵国アルスターににらみを利かせているのだとか。
山頂からはスライゴの山や海を360度眺め渡すことが出来る。トレイルはいくつかあり、片道約1時間のクイーン・メイヴ・トレイルが人気。
http://gostrandhill.com/explore/hikes-walks/queen-maeve-trail/
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【フィン・マックール】

アイルランド神話の3つめの物語群、「フィン物語群」の主人公といえる存在で、クー・フリンと並ぶ人気を誇るケルトの英雄。最強の騎士団、フィアナ騎士団の団長で、透き通るような白い肌と美しい金色の髪を持つ容姿端麗で、知恵も優れたケルト神話きってのイケメンです。指揮官としても優れた統率力を持ち、部下にもディルムッドやオシーン、隻眼のゴルなど個性的な戦士が多く、のちのアーサー王と円卓の騎士達の元ネタと思われる逸話も多くあります。 FGOでは「ランサー」のサーヴァントとして登場します。

画像:“フィアナを救いに来たフィン・マックール”


ジャイアンツ・コーズウェイ(Giant’s Causeway, Co. Antrim)


アイルランド島北海岸にある世界遺産の奇岩。4万本を数えるという石柱群は6000万前の火山活動により形成された柱状節理だが、「巨人の土手道」を意味する地名は伝説に由来し、巨人フィン・マックールが対岸スコットランドのスタッファ島の巨人ベンドナーと対決する際につくった土手道の名残りだとされる。果たし合い前夜に怖気づいたフィンは、賢い妻ウナの手引きにより赤ん坊になりすまし、「赤ん坊がこんなに大きいなら、父親のフィンはとてつもなく大きいに違いない。とても勝ち目はないだろう」とベンドナーを誤解させて追い払うことに成功。ベンドナーはフィンが追って来ないよう土手道を壊しながら逃げかえったため、現在はアイルランド島とスタッファ島の沿岸にのみその痕跡が残ることになったと言われる。
https://www.nationaltrust.org.uk/giants-causeway
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モーン山脈(Mourne Mountains, Co.Down)


フィン・マックール終焉の地。ある日、イノシシ狩りの最中に遭遇したライバルの巨人ラスケイアと、カーリングフォード湾を挟んで決闘になる。重さ50トンの巨石を投げつけてラスケイアを倒したフィンは疲れて眠り込んでしまい、そのまま山になったという。それがモーン山脈。ロストレヴァー(Rostrevor)近くのスリーヴ・マーティン山に見られる「大きな石」を意味する「クロウモアの石(Cloughmore Stone)」が、フィンが投げた巨石だと言い伝えられている。



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モッティー・ストーン(Mottee Stone, Co. Wicklow)


フィン・マックールのハーリングの球だったと言われている、重さ150トン、高さ2.4メートルの巨石。1万年前の氷河期の終わりに、溶けだした氷河により他地域から運ばれ置き去られた花崗岩石。(アイルランドではこのような巨石が各地に見られ、巨人のボールだと言い伝えられていることが多い)
高さ240メートルの丘の上にあり、石には鉄の梯子が取り付けられているので、よじのぼって眺めを楽しむことが出来る。

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【ディルムッド】(ディルムッドとグラニア)

ディルムッドはフィン物語群に登場する騎士のひとりで、フィン・マックール率いるフィアナ騎士団の一員。フィンをも超えるイケメン設定で、額に妖精から付けられた「女性を虜にしてしまうほくろ」を持つ魔性の男。フィンの3番目の妻となるはずだったグラニアと恋に落ちて駆け落ちする逸話が有名で、アーサー王と円卓の騎士におけるランスロットにも通じるキャラクターです。
「Fate/Zero」でランサーのサーヴァントとして登場しますが、なぜかチャームポイントのほくろが額から右目下になっています。

画像:Beatrice Elvery “ディルムッド” (1914)


ベンブルベン(Benbulben, Co. Sligo)


スライゴ・タウンの北にそびえる、高さ526メートルの台形の岩山。スライゴゆかりの文豪W.B.イェイツにも愛され、山の中腹には異界への出入り口があるとの言い伝えもある。
「ディルムッドとグラニア」のディルムッド終焉の地。グローニャを奪われた恨みを忘れないフィンの罠にはまったディルムッドは、この山頂で魔のイノシシに襲われ瀕死の重傷を負う。命を助けることが出来るのは魔法の手を持つフィンだけだったが、フィンはその手から水を飲ませることを拒み、見殺しにする。
国道15号線沿いのグレンジ(Grange)付近から、きれいな台形のかたちで眺めることが出来る。山頂へのアクセスはLuke’s Bridgeから。決まった登山道はないため、泥炭地を歩き沢を登ることになるが、到達出来れば素晴らしい眺めを楽しむことが出来る。

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ブルーナボーニャ(Bru na Boinne, Co. Meath)


世界遺産に登録されているアイルランドを代表する古代遺跡群。大小合わせて40の古代遺跡が密集し、中でも紀元前3200年建立の新石器時代の羨道墳(せんどうふん)であるニューグレンジがよく知られている。
ディルムッドの最期にはいくつかの異なるバージョンがあり、亡骸はブルーナボーニャに運ばれたと書かれているものもある。ブルーナボーニャとはアイルランド語で「ボイン川の王宮」の意味。
https://heritageireland.ie/visit/places-to-visit/bru-na-boinne-visitor-centre-newgrange-and-knowth/

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「ディルムッドとグラニアのベッド」(”Diarmuid and Grainne's Bed”)


ドルメン、コートケーン、ウェッジトゥームなど新石器時代の巨石古墳で、屋根となる石が平らな形をしているものは、アイルランドでは「ディルムッドとグラニアのベッド」と呼ばれることが多い。フィンの追っ手を逃れて愛の逃避行を続けた2人が野外で一夜を明かした「ベッド」であるとのロマンチックな言い伝えから。 代表的なものに、アラン諸島イニシュマーンのウェッジトゥームがある。

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【トリスタン】(アーサー王物語「トリスタンとイゾルデ」)

ケルト神話を下敷きにして創作されたと思われる「アーサー王伝説」に登場する円卓の騎士のひとり。最強の騎士として名高いランスロットに次ぐ実力者として描かれることが多く、アーサー王伝説に取り込まれた物語「トリスタンとイゾルデ」の主人公でもあります。悲恋ロマンス「トリスタンとイゾルデ」は、アイルランド神話のアルスター物語群のなかの「ノイシュとデアドラ」や前述の「ディルムッドとグラニア」が元ネタになっていると言われています。
FGOでは「アーチャー」のサーヴァントとして登場し、弓の名手として描かれています。

画像:John Waterhouse “トリスタンとイゾルデ" (1916)


イゾルデの塔(Isolde's Tower, Exchange Street Lower, Temple Bar, Dublin 2)


13世紀のダブリン城壁に付随する塔のひとつで、1993年に基壇部分が発掘された。31の塔のうち防衛上もっとも重要な位置を占めるもので、壁の厚みは3.9メートルもあったという。現在は上にアパートが建設されているため、柵の外からわずかにのぞき見ることが出来るのみ。
塔の名の由来ははっきりしないが、「トリスタンとイゾルデ」のイゾルデがアイルランドの王女であることから、関連が想像される。「トリスタンとイゾルデ」は、「ディルムッドとグラニア」や「悲しみのディアドラ」といった悲恋をテーマとするアイルランド神話をベースしたとの説もある。
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チャペリゾッド(Chapelizod, Dublin 20)


ダブリン市街地の西に位置する、リフィー川沿いの集落。地名はアイルランド語で「イゾルデの礼拝堂(Iseult's Chapel)」を意味し、やはりイゾルデとの関連が指摘される。 地元の言い伝えによると、6世紀頃イゾルデの父はこの地の族長であり、現在のミル・レーンのスチュワート病院(Stewart Hospital, Mill Lane)のあたりにその砦があった。付近に残るオールド・チャーチの墓地がイゾルデの父の墓所とされ、イゾルデ自身もセント・ローレンス教会(Saint Lawrence Church)の下に眠っていると言い伝えられている。
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山下直子 プロフィール


アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。
本記事の関連情報は、naokoguideが現在以下で連載しているブログ「ナオコガイドのアイルランド日記」でも紹介されています。
http://naokoguide.com/

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