ご予約・お問い合せ:プランクトン Tel. 03-6273-9307
TOPコンサート日程チケット予約CDレーベルお問い合せ
公演レポート

京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園(2014.9.21)
文・写真:松山晋也


 くるりが主催する野外音楽フェス「京都音楽博覧会」。第8回目となった今回(9月21日、京都・梅小路公園)は、海外からの参加アーティスト4組中なんと3組がプランクトン関係(CD発売中)という快挙。出演したのは、ペンギン・カフェサム・リーヤスミン・ハムダンの3組だ。

 ジム・ジャームッシュの映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』でフィーチャーされてにわかに注目されるようになった女性シンガー、ヤスミン・ハムダンは、レバノン出身パリ在住。生まれてこの方ずっと、中東の政治的混乱に翻弄され続けてきた美貌のディアスポラの歌は、歌詞の内容が色恋ものだろうが政治的なものだろうが、一種の祈りであることはCD『YA NASS』を聴いてわかっていたつもりだが、ライヴを観てそれを一層確信。片手を口の横に添えて歌う姿は、遠くにいる誰かの痛みを癒そうとやさしく語りかけているようでもある。エレクトロ・マナーの中東ブルースとも言うべき浮遊感に富むアラビックなサウンドをバックにした歌声は、CDで聴くよりも、はるかにソウルフルで逞しい。そして、匂い立つ獰猛なエロス。ポジティヴなエイミー・ワインハウスって感じかな。

 新作『ザ・レッド・ブック』も好評のペンギン・カフェも、知的な室内楽コンボというCDのイメージを覆す、かなりワイルドなパフォーマンスで会場を沸かせた。父(故サイモン・ジェフス)と縁の深い京都ということもあってか、リーダーのアーサー・ジェフスは愉快なMCを差し挟みつつ、ピアノ、エレキ・ギター、ウクレレ、ハルモニウム、ティン・ウィッスルと楽器を素早く持ち替えてハイ・テンションでアコースティック・アンサンブルを引っ張ってゆく。シンプルさと複雑さを併せ持ったミニマルなビートと、とことんキュートなメロディ。ある時はラテン風に、ある時はジャグ・バンド風にと変化してゆくペンギンならではの軽快な無国籍サウンドが大観衆をヒートアップさせてゆく様は、さながらブレーメンの音楽隊といった趣。9月28日まで続く日本ツアーも、きっと盛り上がることだろう。

 そして、一昨年のデビュー・アルバム『グラウンド・オブ・イッツ・オウン』が世界中のメディアで大絶賛された、英国トラッド・フォークの革命児サム・リー。今回はトランペットやチェロ奏者のいない4人編成(口琴/ハルモニウム/歌のサムの他、ヴァイオリン、パーカッション、和琴)で、かつ、女性琴奏者は過去にほとんど共演経験のないゲスト・プレイヤーだった(しかも、フライト・トラブルのためぎりぎりでの会場入り!)が、英国のジプシー/トラヴェラーズ・コミュニティで伝統音楽研究を続けてきた冒険家だけあり、何事においても臨機応変。限られた条件下でも、飄々と自分たちのオリジナルな世界を作り上げてしまう。デビュー作の冒頭に収録されていた人気曲「ジョージ・コリンズのバラッド」では、「今回、世界で初めての試みです」と琴を取り入れたアレンジに挑戦。実は、本番直前に楽屋裏で車座になってこの曲を試しているのを見た時は「大丈夫かいな・・・」と心配になったのだが、本番ではかなりスリリングなパフォーマンスを観せてくれた。こういった“いつだって生もの”的スタンスと表現こそは、“更新し続ける伝統音楽”を目指してきたサムにふさわしい。琴奏者のメリッサが琴以外に三味線も巧みに演奏したり、あるいは、演奏中のヴァイオリンの弦を横からパーカッショニストが細い棒で叩いてツィンバロムのような音を出したりと、多彩な音色でも楽しませてくれる。しかし、何よりも素晴らしかったのが、サムの歌だ。ますます艶と深みを増し、シンガーとして成熟ぶりを見せつけてくれたサムのバリトン・ヴォイスは、数百年にわたって受け継がれてきた英国伝統音楽の神髄をきっちりとらえつつ、モダン・アート的な輝きにも満ちている。彼が、他とは比較できない、極めてユニークなシンガーであることを改めて実感させるパフォーマンスだった。

 サム・リーは、この12月にはフル・メンバーで再来日する。そこでは、アイリッシュのアヌーナリアム・オ・メンリィだけでなく、アイヌのトンコリ奏者OKIや、沖縄のシンガー上間綾乃、更には笙の東野珠実など雅楽演奏家たちとのコラボレイションも予定されている。我々は間違いなく、サム・リーにしか作れない驚きの世界を目撃できるはずだ。

松山晋也(音楽評論家)

ヤスミン・ハムダン

ペンギン・カフェ

サム・リー

(株)プランクトン Tel.03-6273-9307 info@plankton.co.jp